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ご縁の宿伊藤屋リニューアルプロジェクト プロローグ

和室ベッド部屋

昭和8年建立の本館のお部屋はトイレも洗面所も無く、共同トイレと共同洗面所を利用してもらう感じで、当時は喫煙・禁煙の分煙もないことから壁に染み込んだ臭い、ヤニ染みなどもあり、また防音や断熱なども施されておらず、クレームの原因にもなっていました。いつか、これをトイレ洗面付きのお部屋へとリニューアルしたいと前々から工務店の方にも説いていて、構想を練っていたところへ、観光庁の「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」の補助金の話が舞い込みました。

既にリニューアルの構想はあったので、すぐさま工務店に連絡し、申請をするので資料を用意してもらいたいとお願いしました。この補助金事業も観光庁としては新たな取り組みで、不動産関係に補助金が付くのは珍しいこと。これを逃したら次は無いかも?などと言われたもので、絶対に通す!という意気込みで企画を練りました。

私の補助金に対する考え方は一貫して2点に気をつけています。
1,補助金以上に税金でお返しする事。
2,地域にお金が落ちるように地元の企業を使う事。

工務店はいつもお世話になっている藤栄工務店さん、そして今回レストランもリニューアルすることで兵庫工務店さんにもご協力いただくことにしました。どちらも佐渡の地元企業で、地域のために尽力されている方たちです。そして、設計デザインをしっかりしたいと思っていて、以前真野新町にあるシェアベースの大久保新さんから昔ご紹介いただいていた、隈研吾建築都市設計事務所今井博康さんに打診したところ、快諾いただきました。今井さんは佐渡島内では北沢浮遊選鉱場のカフェのデザインも手掛けています。

今井さんに依頼したのは2つの目的がありました。
1,都会でのノウハウを地元企業に落とし込むこと
2,しっかりしたデザインでお客様の満足度をあげること

様々な補助金事業をこの目で見てきて、大体は一過性のもので終わってしまうパターンが多いので、目的1はデザインにおける考え方を地元に落とし込みたかったのが狙いです。佐渡にはデザインについての考え方がとても薄く、印刷においても、設計においても、ホームページおいてもそういった事にお金を費やすことに慣れていないので、未熟な部分が多く、今回のプロジェクトで少しでも地元に「デザインとは?」を落とし込めればと考えました。

ただ、大きな超えなければいけないハードルがあり、募集から申請締め切りまで10日ほどしかない。(DMOへの提出期限で国への申請は1ヶ月程ありましたが)今回のプロジェクトは5000万円程。補助率は2/3で1/3(補助は税抜きなので約1800万)が自己負担となる。国からの補助なので、佐渡島にこれだけのお金が舞い込む形となるので、経済効果的には外貨獲得(島外資金という意味で)として大きい。そして私の今まで手掛ける一番大きな金額のプロジェクトとなりました。

まぁほぼほぼ、リニューアルの構想は描けていたので申請書類の提出、大まかな設計図も提出し、銀行へも取り付けが出来て無事申請完了。そして審査は通りました。正直寝る間も惜しんで書類を書いたし、他の事業も同時着手していた案件が3~4個程あったのでかなり大変ではありましたが、なんとか纏め上げて事業着手に至りました。

リニューアル工事

工務店さんへは次のことを指示しました。
・なるべく地元の材を使う事、地元の業者を使うこと(佐渡産>新潟県産>国産)
・懸念する箇所(老朽化や今後不具合が起きそうな所)があれば随時報告
・将来こうした方がいいという案を報告(今回は手掛けないとしても)
・災害復旧優先してください(2022年12月24日の佐渡地方大雪による倒木や停電等)

いざ工事を始めて、コロナ禍もあり材が入ってこない、コロナ感染による工事人員確保が困難&中断、ロシアウクライナ戦争の影響による材料費燃料費高騰、工事中の佐渡地方大雪による停電や倒木による災害発生などありとあらゆる障害が立ちはだかり、様々な変更や中断を余儀なくされました。一体何の苦行でしょうか?と問いたくなるような次々舞い込む課題に、日々疲弊しつつも、今井さんの設計していただいたデザインの素晴らしさに希望をいだきつつ、ただただ奮闘しておりました。

無事工事は完了し、2023年4月15日にリニューアルオープン。
ご縁の宿伊藤屋リニューアルオープン資料

昭和8年建造の客室を和室ベッド部屋へとリニューアル

和室ベッド部屋

うちの旅館は1878年(明治11年)創業で、その頃の建物は昭和8年に改築されました。昭和8年の頃の建物ですから、トイレも洗面所もなく、いつかトイレ付きのお部屋にしたいと思っていました。丁度観光庁の「地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化事業」という補助金のお話をいただき、今回のリニューアルへと踏み切りました。

とはいえ、細かいプランなどなく、ただお部屋にベッド付き&トイレ洗面付きにしたいという思いだけで、重要な設計をどのようにするかを悩んでいました。ちょうど良いタイミングで、隈研吾建築都市設計事務所の今井博康さんを知人から紹介され、このプロジェクトを引き受けてくださいました。

今回の工事にあたり、なるべく地元のものを使いつつ、地元の業者で手掛ける。これが私の工務店への依頼でもありました。
旅館のリニューアル工事を引き受けてくださったのは、地元羽茂の藤栄工務店さん。たまたま近所の工事に携わっていたところ、うちもお願い出来ないかと相談したところ、快く引き受けてくださり、施工も打ち合わせも丁寧で、信頼のおける工務店さんです。

いざ工事が始まると、床の高さは建物の歪みからバラバラで、水平にするために追加工事が必要だったり、柱の補強が必要だったり、排水用の配管が通せない作りだったりと、予想していなかったことが沢山噴出しつつ、昨年12月24日の大雪で各地で被害が出て、工務店さんも設備屋さんも各地回らなくてはならない状況に、コロナでスタッフの方が休み、尚且つ海が荒れて部材が入って来なかったり、コロナ禍で部品がなかなか入ってこないという状況もあり、苦難ばかりのリニューアル工事となりました。

違い棚

リニューアルしたお部屋は2部屋を繋げて、1部屋にすべく広さも贅沢にした快適な作り。昭和8年の床の間はそのまま残し、古いものと新しいものが共存する空間。そして今井さんの意匠である、浮いたように見える座敷。そこにベッドを置く。そんなデザインになりました。

この浮いたように見える座敷は、内覧会に来た方たちも不思議そうに覗き込み、どうやって作ってあるのだろうと乗ってみたり押してみたり、人の興味を惹くデザインとなっているようです。普通は畳を抑えるための枠がついたり、抑えのための金具がついたりするわけですが、地元の畳屋さん、工務店さん、設計の今井さんとで、このデザインを実現するためにどうしたら出来るのかを悩み、試行錯誤しつつ完成した共同合作の「浮いたように見える座敷」なのです。

浮いたように見える座敷

その他にも沢山の工夫とこだわりを詰め込んだこのリニューアル工事ですが、これからブログを頻繁に更新すべく徐々にお伝えしていこうと思います。
4月15日の12時より予約受け付け開始となります。島開きに合わせてリニューアルオープンとさせていただきました。
このお部屋のお泊りの値段ですが、お一人様1泊2食付きで 18,000円~(シーズンや曜日により変動)となります。
ゴールデンウィークはまだこのお部屋は空いていますので、佐渡にご旅行の予定がありましたら、お泊りお待ちしております。